工作機械における日本企業と台湾企業の技術競争: 直動案内機器と空気圧機器の事例

工作機械は現代の製造業において重要な役割を担っており、その精度と効率を支える技術が日々進化しています。特に、NC（数値制御）装置をはじめとする周辺技術が進化する中で、日本企業と台湾企業はそれぞれ異なる戦略で技術革新を推進しています。本記事では、直動案内機器と空気圧機器を中心に、日本の企業が開発したキーコンポーネントに対し、台湾企業がどのように追随しているかを探り、その結果として工作機械のエコシステムの安定性やニッチ市場の創出にどのように貢献しているのかを考察します。

【事例①】直動案内機器―日本THKと台湾Hiwin

直動案内機器は、工作機械の高速・高精度化に不可欠な部品であり、特に「LMガイド」として知られる直線駆動ベアリングはその代表例です。日本のTHK（株式会社THK）は、1972年に世界で初めてLMガイドを商業化し、工作機械業界に革命をもたらしました。従来の「すべり案内」では摩擦による問題があったが、THKの直線駆動ベアリングは「ころがり」を利用することで摩擦を大幅に削減し、高精度な直線運動を可能にしました。この技術は、特にNC工作機械の精度向上に貢献し、日本国内外の主要な工作機械メーカーに採用されるようになりました。

一方で、台湾のHiwin（上銀科技）は、THKの技術を追随しつつも独自の戦略を展開しています。1989年に設立されたHiwinは、初期の日本製品を多く導入しつつ、徐々に独自の技術開発を進めてきました。特に、Hiwinはボールねじや直動案内機器の分野で一定のシェアを確保しており、日本企業と競り合っています。台湾市場におけるHiwinのシェアは、THKに次ぐ20%前後であり、世界市場でも強い競争力を持っています。Hiwinは日本の工作機械企業にも採用されており、例えば、オークマやヤマザキマザックなどの大手企業が一部機種においてHiwin製の直動案内機器を使用しています。また、Hiwinは産業用ロボットにも進出し、直動案内機器を駆使したロボット製品を開発しています。

【事例②】空気圧機器―日本SMCと台湾AirTAC

空気圧機器は、工作機械の動作において重要な役割を果たす部品です。特に、圧縮空気を用いた駆動機構や自動化システムにおいて、空気圧機器は不可欠な存在となっています。日本のSMC（エスエムシー）は、空気圧機器分野で圧倒的な市場シェアを誇る企業であり、特に精密機器の分野で高い評価を受けています。SMCは、空気圧機器の全般にわたる製品ラインアップを展開しており、品質と技術力の高さが他の企業に対する競争優位性を築いています。

台湾のAirTAC（エアタック）は、SMCに次ぐ空気圧機器メーカーとして急成長しており、特に中国市場への進出が目立っています。AirTACは、低コストで高品質な製品を提供し、価格競争力の面でSMCと差別化を図っています。特に、AirTACは中国国内の生産拠点を活かして、急速に市場シェアを拡大しています。また、SMCに比べて柔軟なカスタマイズが可能であり、顧客ニーズに迅速に対応できる点が強みとなっています。

工作機械エコシステムの安定性とニッチ市場の創出

日本企業が主導する工作機械産業は、NC装置を中心に進化してきましたが、その周辺技術の進化も同様に重要な要素です。直動案内機器や空気圧機器などのキーコンポーネントは、工作機械の精度や効率に直結し、これらの技術革新が工作機械業界全体を支えています。日本企業が開発したこれらのキーコンポーネントは、他の産業にもスピルオーバーし、半導体製造装置や医療機器、ロボットなど、さまざまな分野に応用されています。

台湾企業は、これらの日本企業の技術をキャッチアップし、自国の企業と提携しながら成長しています。HiwinやAirTACは、日本企業に対抗する形で、低コストで高性能な製品を提供し、特にアジア市場や中国市場で強い存在感を発揮しています。これにより、工作機械産業のビジネスエコシステムは、より多様化し、安定性を保ちながらも、ニッチ市場の創出が可能となっています。

まとめ

NC装置を中心に進化してきた工作機械産業において、日本企業は直動案内機器や空気圧機器といった周辺技術の開発においてキーコンポーネントを提供しており、これらの技術革新が他産業への応用を促進しています。一方、台湾企業は日本企業の技術を追いかけつつ、独自の強みを発揮して市場に進出しています。特に、HiwinやAirTACは、価格競争力や柔軟なカスタマイズを武器に、アジア市場を中心にシェアを拡大しています。

このような技術競争と協力の中で、工作機械産業のエコシステムは安定し、さらなる技術革新と市場の多様化が進むことが期待されます。日本企業が開発したキーコンポーネントのモジュール化により、工作機械の生産は効率的になり、一定の精度を持つ工作機械を比較的容易に生産することが可能となっています。これにより、各企業はその強みを活かした製品開発が可能となり、産業全体の競争力を高めています。