展示会分析から見える産業用ロボットの市場動向と今後の展望

はじめに

産業用ロボットは、製造業の生産性向上に欠かせない存在です。2019年に東京ビッグサイトで開催された「2019国際ロボット展」では、最新技術を搭載したロボットやシステムが一堂に会し、産業界の注目を集めました。本記事では、国際ロボット展をはじめとした展示会のシェア分析や、主要企業の戦略を通じて、産業用ロボット市場の現状を解説します。

2019国際ロボット展

概要

「2019国際ロボット展（iREX2019）」は、国内外637社・団体が出展し、3,060小間という過去最大規模で開催されました。来場者は141,133名に達し、産業用ロボットゾーンでは自動車、エレクトロニクス業界に加え、食品や医薬品業界向けのロボットも展示されていました。また、物流や建設業向けの展示も増加し、産業の多様化に対応するロボットの需要が広がっていることが示されました。

一方で、サービスロボットゾーンでは災害対応や介護、教育用ロボット、コンビニエンスストアで活用されるロボットが展示され、ロボット技術の実生活への浸透が強調されました。特に、災害対応や農業など多様な分野での導入が進んでいます。

ロボットシェアの集計結果

2019年の国際ロボット展では、合計806台のロボットが展示されました。そのシェアは以下の通りです。

ファナック（日本）：124台（シェア15%）
安川電機（日本）：87台（同11%）
不二越（日本）：71台（同9%）
ユニバーサルロボット（デンマーク）：67台（同8%）
三菱電機（日本）：64台（同8%）
ABB（スイス）：17台（同2%）
KUKA（ドイツ）：12台（同1%）

ファナックは多関節ロボットだけでなく、協働ロボットを45台展示しており、全体の構成比36%に達しています。また、ABBは展示の約59%が双腕ロボットで構成されていました。

SIer（システムインテグレータ）ゾーンの役割

2019年の展示会では新設された「ロボットSIerゾーン」で、ロボットシステムインテグレータが幅広いシステムを展示しました。このゾーンでは以下のような特徴が見られました。

ファナックと安川電機がそれぞれ21台（シェア23%）展示。
ユニバーサルロボットは10台（同11%）。

SIerは、多様なメーカーのロボットを組み合わせて顧客ニーズに応じたシステムを提供し、工場の生産ラインを再現する展示を行いました。これにより、従来のロボット企業単独展示と異なる競争力を見せています。

他の展示会との比較

以下は、主要な展示会における産業用ロボットの展示台数比較です。

欧州EMO 2019：306台
中国CIMT 2019：190台
日本JIMTOF 2018：99台

欧州では外資系企業が高度なシステムを披露する一方で、中国では比較的シンプルな自動化システムを展示するローカル企業が目立ちました。DMG森精機の「MATRIS」システムなど高度な自動化システムも登場し、現地工場で製造されたハードウェアとソフトウェアの融合が進んでいます。

ファナックの戦略とプラットフォーム・リーダーシップ

標準化の徹底

ファナックは標準化されたロボットを製造し、自社の生産工程を自動化しています。その結果、故障率の低下やコスト削減が可能になり、多様な顧客ニーズに対応できる体制を整えています。

協業によるオープンイノベーション

2016年には米シスコシステムズと提携し、ロボットの稼働情報を収集・分析するシステムを開発。これにより故障の予兆を見つけ、稼働率を向上させる仕組みを構築しています。

サービス体制の強化

世界100カ国以上に260以上のサービス拠点を設置し、開発者が初期段階から顧客サポートを行う体制を敷いています。これにより、製品導入後のサポート品質が高まり、顧客満足度の向上につながっています。

日本企業と外資系企業の動向比較

日系企業では安川電機や三菱電機が、特定業界向けに高度なシステムを提供しており、国内市場で高いシェアを誇ります。一方で、外資系企業ではKUKAやABBが欧州で高いシェアを持ち、中国市場でも競争を強めています。特にユニバーサルロボットは協働ロボット市場で無料プログラムキットなどの提供を行い、中小企業向けシェアを拡大しています。

日本市場の今後の展望と課題

産業用ロボット市場は、今後も多様化が進むと予想されますが、以下の課題があります。

SIerの自律化の遅れ

日本国内ではSIerの役割分担が不十分であり、普及が限定的です。

競争激化

中国や欧州の企業が低価格かつシンプルなシステムで市場を拡大しているため、差別化が必要です。

サービスロボットの拡大

産業用だけでなく、介護や教育など新たな分野での導入が求められています。

まとめ

産業用ロボット市場は、競争が激化する中で多様なニーズに対応するシステムが求められています。ファナックをはじめとする主要企業は、標準化やオープンイノベーションを進めることで市場競争力を高めています。今後はSIerの活用やサービス体制の強化を通じ、顧客満足度の向上を図ることが重要です。