産業用ロボットにおけるシステムインテグレーター(SIer)の重要性と市場動向

システムインテグレーター(SIer)の役割とは

産業用ロボットを効果的に導入するためには、システムインテグレーター(SIer)の存在が重要です。SIerは、生産ラインの設計やロボットの設置、制御ソフトウェアの組み込みなどを担当し、顧客のニーズに合わせたシステム構築を行います。特に日本の大手自動車企業は、独自仕様を重視するため、自社で仕様を決定し、SIerにカスタム設計を依頼するケースが多いです。

一方、ファナックのような企業は標準化された汎用性の高いロボットを提供しており、特にカスタムニーズが少ない米国市場で高いシェアを確保しています。米国市場では自動車産業向けに多くの導入実績があり、ゼネラルモーターズ(GM)との提携がファナックの成長を後押ししました。

日本のSIer市場の課題と変化

これまでの日本のSIerは、大手企業の「自前主義」に対応する受託開発が中心でした。そのため、構築されたロボットシステムが外部に販売されることは少なく、知的財産権も顧客側に帰属するケースが多かったです。このような閉鎖的な構造が、食品、医薬品、一般機械業界など他産業へのロボット普及を遅らせる一因となっていました。

しかし、2018年には「ロボットに命を吹き込む仕事」としてFA・ロボットシステムインテグレータ協会が設立され、会員数159社と協力会員47社を擁しています。2020年にはSIer向けの検定試験も導入され、人材育成が進んでいます。加えて、日立製作所は米国と日本のロボット企業を買収し、自社のIoT基盤「Lumada」と連携させた新しいデータビジネスを展開する方針を示しました。また、NECは「ロボット導入トータルサポートパッケージ」を開始し、2021年度までに100社への導入と売上150億円を目標としています。

海外市場におけるSIerの動向

特に中国のSIer市場は成長が著しく、2018年には前年比13%増となる607億元(約9,700億円)規模に達しました。中国国内のSIer企業は約1,000社あり、そのうち92%が中国企業です。溶接ロボット、パレタイジングロボット、組立ロボットなど、業種ごとに異なる用途に対応する多様な企業が存在しています。

中国国内の大手SIer企業の一例として「博余精工科技股份(BOZHON)」があります。同社は2006年に蘇州市で設立され、幅広い分野の自動化設備を手掛けています。エンジニア数は1,000人以上に達し、売上高は約25億元(約400億円)まで成長しています。開発投資に年間売上の約12%を費やし、1,100を超える特許を取得している点も注目されます。

SIerの役割拡大による市場の変革

SIerは従来、顧客の生産ラインに合わせたカスタマイズ設計が主流でしたが、最近では独自のソリューションを開発し、パッケージ化して提供する動きが見られます。この変化により、従来の手作業が多かった業界でもロボット導入が進み、効率化と生産性向上が期待されています。また、各国の企業は自動化技術の高度化に伴い、ロボット導入におけるSIerとの協業体制を強化しています。

特にAIやIoT技術を活用した新しいソリューションが注目されており、ロボットの稼働データを活用した予知保全や生産ライン最適化サービスが提供され始めています。今後は、SIerがロボット市場全体の成長を支える重要な存在となるでしょう。

今後の展望

システムインテグレーター(SIer)は、産業用ロボット市場の成長において欠かせない存在です。特に、ファナックやABBなど主要ロボットメーカーはSIerとの連携を重視し、製品のアフターサービスやサポート体制を強化しています。ロボット市場は今後も多様化が進み、食品、医薬品、電子部品業界など新たな業界への普及が予測されます。

特に、オープンプラットフォームや開発者向けツールを提供する「UR+(ユニバーサルロボット・プラス)」のような取り組みは、SIer市場の拡大を後押ししています。これにより、中小企業でも容易にロボットを導入できる環境が整いつつあります。

まとめ

SIerの役割は生産ライン設計やロボットの導入支援にとどまらず、新技術の導入やサービス提供の多様化によって進化しています。各企業が独自技術を駆使し、他業種への展開を推進することで、ロボット市場はさらなる成長を遂げています。SIerを含めた総合的な支援体制を理解することが、今後のロボット導入の成功に不可欠です。