PLCにおけるデータ処理の基礎知識と活用方法

はじめに

PLC（プログラマブル・ロジック・コントローラ）は工場の自動制御システムで幅広く使用されていますが、そのデータ処理能力も重要なポイントです。データメモリーを活用することで、単純なオンオフ制御だけでなく、数値データの管理や演算、条件による動作分岐などが可能です。本記事では、PLCでのデータ処理の仕組みと応用方法について解説します。

1. データメモリーの概要と用途

PLCにはリレーのオンオフ信号を記憶するだけでなく、「データメモリー」と呼ばれる数値データの保存領域があります。このデータメモリーは、演算を行ったり外部データを記憶したりするために使用されます。たとえば、センサの測定値や動作回数、設定値などの保存や処理に活用されます。

データメモリーの記号はPLCのメーカーにより異なり、一般的には「D」や「DM」と表記されることが多いです。単位は8ビットや16ビットが一般的で、16ビットのデータメモリーは0〜65535（16進数では0〜FFFF）の範囲で数値を扱うことが可能です。

2. 基本的なデータ演算と設定方法

データメモリーには、四則演算（加減乗除）をはじめとするさまざまな演算が可能です。演算結果は指定したデータメモリーに格納され、後続の制御や表示処理に利用されます。基本的な演算方法は次の通りです：

加算

データメモリー「D0」と「D1」の値を足して「D2」に結果を保存するには、＋ D0 D1 D2と記述します。

減算

データメモリー「D0」から「D1」を引き、結果を「D2」に格納する場合は、− D0 D1 D2と記述します。

掛け算・割り算

掛け算は「＊」、割り算は「／」で行います。

また、数値をデータメモリーに直接設定するには、MOV（ムーブ）命令を使用します。たとえば、データメモリー「D3」に10進数の7を設定する場合は、MOV K7 D3と記述します。「K」は10進数であることを示すため、PLCによっては他の記号（#7など）が用いられることもあります。

3. データメモリーを使った比較処理

データメモリーの内容を比較して、条件によって動作を変える場合には比較演算が使われます。以下のような演算子を使って条件を設定できます：

等しい場合（=）

2つのデータが等しい場合に動作を切り替える

大なり（>）、小なり（<）

特定の数値と比較してその結果により処理を分岐させる

不等号（<>）

異なる場合に別の処理を行う

たとえば、アナログセンサの値をデータメモリーに格納し、その値が設定値を超えた場合にアラームを出すような制御が可能です。こうしたデータメモリーの比較処理により、より柔軟なシステムの構築が可能になります。

4. データメモリーを使った外部データの操作

外部デバイスから設定値を変更したり、数値を表示したりするために、デジタルスイッチや7セグメントLED表示器などが使用されることがあります。

デジタルスイッチからの入力

データメモリーの値をデジタルスイッチで設定し、入力端子に接続して数値を調整します。たとえば、4桁のデジタルスイッチで「X0～XF」に接続し、BCD（2進化10進数）形式で0〜9999の数値を入力できます。

7セグメント表示器への出力

データメモリーに格納された数値をBCD形式に変換し、表示器に出力することで外部からも数値を確認できます。

これにより、操作パネルなどで容易に設定値を変更したり、現在の数値を把握することが可能です。

5. タイマやカウンタへの活用

データメモリーは、タイマやカウンタの設定値としても使用されます。以下はその具体例です：

タイマ設定値の指定

たとえば、一定時間ごとにモーターを動作させるタイミングをデジタルスイッチで調整することが可能です。この設定値をデータメモリーに保存しておき、タイマで使用することにより動作のカスタマイズが可能になります。

カウンタの設定値として利用

カウンタで一定回数の動作を行わせたい場合、回数の設定値をデータメモリーに格納しておくことで、PLCが動作を記憶・管理しやすくなります。

これらの機能により、運転時間や作業回数の条件設定を柔軟に行えるようになり、作業効率の向上が期待できます。

6. 特殊な数値演算と応用

PLCでは、四則演算以外にも特殊な計算が可能です。三角関数（サイン、コサイン、タンジェント）などの特殊関数命令が使える場合、特定の角度や位置の算出など、精密な計算が求められるケースにも対応できます。以下のような例で利用されます：

三角関数による位置の算出

製品の位置や機械部品の角度を設定する際に、三角関数を使って正確な位置調整が可能です。

演算の結果を他の機器に送信

必要に応じてPLCの演算結果を外部の機器やセンサに転送し、リアルタイムでデータを更新できます。

ただし、演算速度は専用のコンピュータに比べると遅いため、即時性が求められる計算には向いていない点もあります。

まとめ

PLCのデータメモリーを利用することで、単なるオンオフの制御にとどまらず、数値の保存、比較、演算が可能となり、より高度なシステム制御が実現できます。データメモリーを活用することによってタイマやカウンタ、三角関数といったさまざまな機能を効率よく管理・運用できるため、設備の多様なニーズに応じた設定が可能です。