産業用ロボットの制御装置とコントローラの役割

1. 制御装置とコントローラの役割とは

産業用ロボットは、精密で複雑な動作を実行するため、専用の制御装置とコントローラを備えています。これらの装置は、動作プログラムの記録や演算、ロボットの動作制御を司るため、ロボット稼働の根幹を成す重要な要素です。

制御装置

ロボットに動作を指示する「CPUユニット」、各関節を動かす「サーボユニット」、電力供給を行う「電源ユニット」などが組み込まれ、作業プログラムに従ってロボットの動きを指示します。

コントローラ

制御装置を操作するための装置で、ティーチングペンダントや外部機器（PLCなど）が含まれます。特にティーチングペンダントは、ロボットに直接教示（ティーチング）を行うデバイスとして、現場で欠かせない役割を果たします。

2. ティーチング（教示）とは？

産業用ロボットに指示を与える際には、動作の順番や姿勢を教え込むためのティーチングが必要です。ティーチングには、ロボットを実際に動かして直接操作する「オンラインティーチング」と、ソフトウェア上でプログラムを作成し後からロボットに転送する「オフラインティーチング」の2つの方法があります。

オンラインティーチング

ティーチングペンダントを用いて直接ロボットを操作しながら教示を行う方式です。協働ロボットでは、作業者がロボットを手で動かして動作を記憶させる「ダイレクトティーチング」が一般的です。現場でリアルタイムに動きを教え込むため、細やかな動作の調整がしやすい利点があります。

オフラインティーチング

パソコン上の専用ソフトウェアを用い、3Dシミュレーションを通して作業プログラムを作成する方法です。オフラインティーチングのメリットは、ロボットを稼働させることなく作業プログラムを作成できるため、工場のラインを止めることなくプログラム変更が可能です。ただし、ソフトの習熟に一定のスキルが求められます。

3. ティーチングペンダントの役割と安全機能

ティーチングペンダントは、ロボットを直接操作しながら教示するための装置で、操作性と安全性を兼ね備えています。

イネーブルスイッチ

このスイッチは、教示者が意識して操作しない限り、ロボットの動作を許可しない安全機能です。握りが緩むとロボットが停止するため、不意の動作や事故を防止できます。

非常停止ボタン

ペンダントには赤い「非常停止ボタン」も備わっており、緊急時に電源を遮断し、ロボットの動作を即座に止めることができます。

有線タイプと無線タイプ

ペンダントには有線と無線の2種類があり、無線タイプは協働ロボットで採用が増加しています。画面が大きく、タブレット型の無線ペンダントにはグラフィカル・ユーザー・インターフェース（GUI）が搭載されており、直感的な操作が可能です。

4. 制御装置のコントローラ構成：シングルタスクとマルチタスク

制御装置には、「シングルタスク」と「マルチタスク」の2種類の処理方式があります。産業用ロボットは多くの装置やサーボモータと連動するため、処理能力の高さが求められます。

シングルタスク

1つのタスクしか処理できず、1つの作業が完了するまで他の作業が開始できません。そのため、リアルタイムの処理や複数の装置の同期が必要な場合には不向きです。

マルチタスク

複数の処理を同時並行で行うことができるため、リアルタイム性が重要な産業用ロボットの制御に適しています。マルチタスク処理により、安定して複数の装置やシステムと同期を取りながら作業が可能です。

5. 外部制御装置「PLC」の活用と役割

PLC（プログラマブルロジックコントローラ）は、ロボットや周辺機器を連携させ、効率的な制御を実現するための装置です。入力機器（スイッチ、センサ）と出力機器（サーボモータなど）を接続し、PLCを司令塔として動作を制御します。

ビルディングタイプ

電源、CPU、入出力ユニットが独立しており、システムの拡張やカスタマイズがしやすい構造です。

パッケージタイプ

電源やCPU、入出力装置が一体化され、低価格でコンパクトな設計です。配線が容易で、簡易的なシステムに適しています。

6. モーションコントローラの特徴と用途

モーションコントローラは、サーボモータを高精度に同期させ、複雑な演算処理を行いながらロボットを動作させる装置です。特に複数軸の同期が必要な作業では、PLCに比べて優れたリアルタイム処理が可能で、産業用ロボットの制御に適しています。

高速な演算処理

モーションコントローラは、1行ずつの処理を逐次実行するため、高速に処理が進み、リアルタイムな制御が可能です。

複数軸の同期制御

サーボモータや周辺装置との同期が必要な多軸制御にも適しており、産業用ロボットの精密な位置決めや複雑な動作を実現します。

7. コントローラのバッテリ管理

制御装置やコントローラ内にはバッテリが搭載され、位置データやプログラムデータを記憶しています。バッテリが切れるとデータが失われる恐れがあるため、定期的な交換とバックアップが必要です。

バッテリ交換のタイミング

一般的にはエンコーダは2年、バッテリは3年ごとが交換目安ですが、定期的な点検が重要です。

データのバックアップ

バッテリが切れた際にデータが失われないよう、バックアップを定期的に取っておくとともに、急なトラブルに備えて復旧方法を準備しておくことが推奨されます。

8. メンテナンスと安定稼働のための管理

産業用ロボットの制御装置やコントローラは、精密な操作とリアルタイム処理が求められるため、定期的な点検やメンテナンスを行うことが稼働の安定に不可欠です。

定期的なメンテナンス

各ユニットのチェックやバッテリ交換、ケーブルや接続部の点検を計画的に実施することで、予期せぬ停止や故障リスクを軽減できます。

教育とスキル向上

ティーチングやプログラム作成に習熟した技術者の育成や、ソフトウェアのスキル向上が、より高精度で安定したロボット運用に繋がります。

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